叶内拓哉の野鳥撮影カレンダー

季節ごとの"野鳥の撮り方"を詳しく紹介!

9月のテーマ
換羽を終えた鳥たちが「河川や公園」に戻ってくる
写真・解説:叶内拓哉(野鳥写真家)

このサイトの写真はPROMINAR 500mm F5.6 FLで撮影しています。(一部を除く) 

写真:エゾビタキ
渡りの途中に日本を訪れる旅鳥のエゾビタキ。目立たない鳥であるためか、意外と知られていませんが、平地の公園でも見ることができます。林縁部を好むため、比較的明るい条件で撮らせてくれます。
TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680~1000mm)+EOS7Dで撮影。

9月は夏鳥や漂鳥が移動する季節。子育てを終えた鳥たちは、羽が抜けかわり落ち着いた色彩の冬羽へと姿を変えます。標高の高い場所で夏を過ごした夏鳥は次第に平地へと移り、渡りに備えます。この時期は河原でノビタキを撮る方も多いと思いますが、緑のある公園に出かければ、夏鳥のキビタキ、旅鳥のエゾビタキなどにも出会えるでしょう。

また、水田や沼などには、渡りを前にサギ類が集まり、頻繁に食物を捕る姿を見ることができます。越冬のため南へ飛んでゆく夏鳥、北の繁殖地から越冬地へ渡る途中に日本へ立ち寄る旅鳥、様々な鳥たちが交錯するこの季節、フィールドへ出かけてみましょう。

河原ではススキにとまるノビタキやモズを狙う

写真:ノビタキのオス ススキにとまるノビタキのオス。通常、図鑑に載っているノビタキの写真は夏羽のもので、冬羽となるこの時期はだいぶ印象が異なります。全体的に淡いオレンジ色になり、頭や背、翼に黒い羽根が混じります。
PROMINAR 500mmF5.6FL+TX10(500mm)+EOS7Dで撮影。

8月から9月上旬にかけては、山野に棲む小鳥類は夏羽から冬羽に抜けかわる“換羽期”を迎えます。多くの鳥は数枚ずつ抜けかわり、完全に冬羽が生えそろうのに3〜4週間かかります。換羽期の小鳥類は上手に飛べないこともあり、外敵を恐れ、藪の中に隠れてしまいます。当然、撮影は難しくなります。

この野鳥の換羽期については、俳句の世界では「羽抜鳥(はぬけどり)」と呼ばれ、晩夏の季語として使われています。ところどころ羽が抜けた姿が、みじめで滑稽であるとして、俳句の題材となっているようです。

9月上旬を過ぎると、換羽も終わり、見晴らしのよい場所に出てきます。日本で繁殖して越冬のため南へ渡っていく夏鳥、ノビタキやキビタキなどは、高原などの標高の高いエリアで夏を過ごし、平地へ移ってきます。特にノビタキは河原に広がる草地などで、よく見られます。ススキやアシなどの茎、それも先の方にとまり、「ヒッヒッ」と鳴くので、比較的見つけやすく、撮影しやすい鳥です。また、やや遅れて、モズも河原に現れるようになります。

なお、見晴らしのよい河原はこちらから野鳥を見つけやすいと同時に、野鳥からも見えることになるので,鳥に警戒されないよう注意する必要があります。よく観察して、好んでとまる場所を見つけます。背景がスッキリとし、撮りやすい角度を見つけ、そっと近づき、キビタキが来るのを待ちます。できるだけ人間のシルエットを鳥に見せないように工夫し、ジッと動かずチャンスを待って、撮影しましょう。

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平地の公園でキビタキやエゾビタキの姿を探そう

写真:キビタキ 越冬のために南へ渡るキビタキ(写真は冬羽のオス)は、この時期、平地に姿を現します。池や川に面した林縁部を好み、見晴らしのよい公園の木々にとまることがあります。追いかけると逃げてしまうので、鳥の動きを推測し、枝の前でジッと待って撮影しました。
TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680~1000mm)+EOS7Dで撮影。

ノビタキと同じ夏鳥のキビタキ、そして渡りの途中、日本に立ち寄る旅鳥のエゾビタキは、9月中旬、平地の公園などで羽を休めることがあります。彼らは、比較的明るい、水辺の林縁部を好むので、そうした場所を探すといいでしょう。この時期のキビタキのオスは、夏羽のときほどは美しくはなく、眉斑と胸の黄色は鮮やかさが落ちます。また、エゾビタキもあまり鳴かないため、その存在に気がつかないことも多いようです。

キビタキやエゾビタキはこの時期、ミズキの仲間の実を好んで口にします。ミズキやクマノミズキの実は、始めは緑色ですが、熟すにつれ、紫がかった黒色に変わります。落葉高木のミズキは、成長が早いこともあり、公園樹としてよく利用されており、緑の多い公園であれば必ずといっていいほど植えられています。9月から10月にかけて、紫黒(しこく)色に色づくミズキの実を見つけたら、キビタキやエゾビタキが来るかもしれないので、注意深く観察してみましょう。

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秋の訪れとともに野鳥で賑わう水辺

写真:オオタカの幼鳥 杭の先にとまるオオタカの幼鳥。移動中の若い鳥は成鳥に比べて比較的に警戒心が薄いことがあり、比較的撮りやすいでしょう。
PROMINAR 500mmF5.6FL+TX17(850mm)+EOS7Dで撮影。

9月は河川や干潟、水田周辺の水辺では、サギの仲間の動きも活発になります。夏鳥であるアマサギやダイサギ、チュウサギ、コサギ、ゴイサギは渡りに備え、次第に群れをつくるように集まってきます。野鳥の密度が高まれば、撮影のチャンスも増えることになります。食物を探す姿から飛ぶ姿まで、さまざまなシーンに出会うことができるでしょう。

また、8月のテーマとして紹介したシギやチドリの仲間も水辺を賑わせる一員です。南へ渡るのに必要な、栄養を蓄えるため、盛んに食物を捕ります。

水辺に野鳥が集まってくると、猛禽類の動きも活発になります。しかも、この時期は独り立ちしたばかりの幼鳥も多く、成鳥に比べると警戒心が薄いこともあり、撮影するチャンスに出会える可能性も高くなります。

写真:アオサギ アオサギはほかのサギ類の鳥とは異なり、一年中見られる留鳥ですが、この時期には北から移動してきたもの(漂鳥)も多く、個体数が増えるので、撮影しやすくなります。また飛び方もゆっくりで、飛翔写真の練習に最適です。
PROMINAR 500mmF5.6FL+TX10(500mm)+EOS7Dで撮影。

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平地の水辺や公園を探すとさまざまな野鳥に出会える

写真:メジロ 平地に戻ってきたメジロ。ヨウシュヤマゴボウの紫の実をついばんでいます。
TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680~1000mm)+EOS7Dで撮影。

ススキやアシなどが茂る河原ではノビタキ、公園ではキビタキ、エゾビタキ、干潟や水田周辺の水辺ではサギの仲間、シギやチドリの仲間が、渡りの前のひとときを過ごしています。春の渡りの時期とは異なる冬羽の姿はこの時期ならでは。夏羽のような色鮮やかな装いではありませんが、換羽を終えたばかりの羽もつややかです。

中秋の名月を過ぎると、日中の暑さも収まり、爽やかな秋を感じさせるようになります。フィールドに野鳥の姿が戻ってくるこの時期、秋風に吹かれながら野鳥撮影を楽しみましょう。

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