叶内拓哉の野鳥撮影カレンダー

季節ごとの"野鳥の撮り方"を詳しく紹介!

8月のテーマ
秋の渡りシーズンの幕開け干潟で「シギ・チドリ」を撮ろう
写真・解説:叶内拓哉(野鳥写真家)

このサイトの写真はPROMINAR 500mm F5.6 FLで撮影しています。(一部を除く) 

写真:オオソリハシシギの群れ
波打ちぎわでエサを探すオオソリハシシギの群れ。ゴカイを好み、盛んに足元の砂にあいた穴にクチバシを差し込みます。低い位置にカメラを構え、背景に打ち寄せる波の白い波頭を入れました。また、手前にぼけて写るノリやアオサの緑が、いいアクセントになっています。千葉県・三番瀬。
PROMINAR 500mm F5.6FL+TX10(500mm)+EOS7Dで撮影。

8月、まだ暑い盛りですが、野鳥の世界では秋の渡りが始まっています。山野の鳥はすっかり姿を隠してしまいますが、海辺に目を向けると、シギやチドリが潮の引いた干潟や砂浜で盛んにエサをついばむ姿が見られます。

シギやチドリの仲間は、繁殖地であるユーラシア東部と越冬地である東南アジアやオーストラリアなどを行き来する途中、春と秋の2回、日本列島に立ち寄ります。日本で繁殖する夏鳥でも、越冬する冬鳥でもなく、渡りの途中に中継地として日本に立ち寄る習性から、「旅鳥(たびどり)」と呼ばれています。

古来より「千鳥」と歌にも詠まれるチドリの仲間。長い脚で器用に砂地を歩き、忙しなくエサを探す姿を見せるシギやチドリの姿を撮ってみましょう。

エサ場である干潟や砂浜がシギ・チドリの撮影ポイント

写真:アオアシシギ アオアシシギは浅瀬を歩き回り、甲殻類や昆虫類を捕ります。干潟にもいますが、河口や湿地などで、よく見られます。浅瀬では水面に鳥の姿が映ることがあります。きれいな水鏡になることはまれですが、フレーミングするときは、水面の映り込みも意識するといいでしょう。東京都江戸川区。
TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680mm)+EOS40Dで撮影。

シギとチドリは同じチドリ目ですが、シギ科とチドリ科に分類されます。コチドリやイカルチドリ、メダイチドリなど、体が小さく、短いクチバシを持つものはチドリの仲間です。なお、ケリやタゲリは体が大きいですが、これもチドリの仲間です。一方、シギは体の大きさやクチバシの長さ、形状が多様で、体の小さいトウネンやイソシギ、ハマシギなどを除き、いずれも長いクチバシを持っています。慣れないうちは、シギやチドリの仲間を見分けるのは簡単ではありませんが、観察や撮影を繰り返して、少しずつ覚えましょう。

8月に入ると間もなく「立秋」です。立秋を迎えると、早くもシギやチドリが各地の干潟や砂浜に姿を見せるようになります。春の渡りの時期は、すぐに繁殖地へ渡ってしまいますが、秋の渡りの時期には個体にもよりますが、10月までの約2ヶ月、エサをとり、じっくりと渡りに備えるのです。

彼らは砂地が水中に没した場所ではエサをとりませんが、潮が引き、水深が浅くなった場所、砂や泥が顔をのぞかせた場所を歩き回り、ときおりクチバシで地面を突くようにして、ゴカイやカニ、貝などを器用にとります。

干潟や砂浜で彼らを撮るときは、まず潮の干満を知る必要があります。干潮時は陸地が広がり、鳥たちは方々に散ってしまいます。そのため、撮影するならば、陸地が狭まる満潮時近くの方が撮りやすいでしょう。

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満潮の前から潮の動きを観察して撮影に適した場所を見つける

写真:ミヤコドリ 潮が引いて姿を現した陸地に集まるミヤコドリ。クチバシは赤みの強い橙色、体の上面は黒く、ほかのチドリの仲間とは趣が異なります。写真は左斜め方向から光が当たっており、特徴のクチバシや体の色がきれいに写っています。千葉県・三番瀬。
PROMINAR 500mm F5.6FL+TX10(500mm)+EOS7Dで撮影。

潮の干満によって、陸地になったり、水中に没したりする干潟や砂浜は、シギやチドリがエサ場として好む場所です。狙うのは満潮時。満潮から潮が引き始めるとき、最初に現れる陸地にシギやチドリが飛んできます。また、エサが多く、捕食しやすい場所は決まっており、しばらく観察すると見えてきます。こうした場所を調べておき、待ちかまえて撮れば、確実に鳥の姿を捉えることができます。

満潮時に撮れるポイントを知るコツは、潮見表などを元に干潟の満潮の時間を確認し、満潮の少し前から観察を始め、潮が満ちるときに最後まで水没しない場所を見つけることです。その辺りは、満潮後に最初に潮が引く場所でもあり、こうした場所がよく見えるポイントに三脚を立てます。

完全に潮が満ちると、居場所がなくなり、飛んでいってしまうことがあります。この場合、満潮から潮が引くのを待っていると、後背湿地などで休憩していた個体が干潟に戻ってきます。この瞬間を待って撮ることが撮影を成功させるコツです。

サギやチドリの姿を見つけ、こちらから近づいて撮ろうとすると、たいてい逃げてしまいます。野鳥は追うと逃げるので、撮影の前に観察を丁寧に行い、予め撮影ポイントでカメラを構え、彼らが近づいて来るのを待って撮るのが正しい撮り方です。

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画面が単調にならないように貝殻や波紋をアクセントにする

写真:シロチドリ 潮が引き始めた干潟を歩くシロチドリ。周囲に散らばる貝殻を画面に加えることで、背景が単調になるのを避けます。画面構成時には、シロチドリを中央に置かず、顔が向いている方向に少し空間をつくることで、バランスのよい構図になります。千葉県・三番瀬。
TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680mm)+EOS40Dで撮影。

潮が引いた干潟にポツンとたたずむシギやチドリを撮るとき、画面を構成する要素として、貝殻などを絡めて撮ると、いいアクセントになります。撮るときのカメラの位置も、高い所から見下ろすのではなく、低い位置に構えるのが作画上、効果的です。低い位置から撮れば、鳥の姿の手前や背景に貝殻をぼかして入れることもでき、奥行き感のある写真になります。

また、狙っているシギやチドリが波打ちぎわにいるのであれば、バックに白く波立つ海面を入れることで、画面が単調になることを避けられます。ほかにも、潮が引いた砂地に波が刻んだ「波紋」があれば、この波紋がきれいに見える角度を探して狙うと、面白い写真が撮れるでしょう。

このとき、光線状態まで考えて撮影する場所を決めるといいでしょう。鳥の姿をきれいに撮るためには順光がいちばんです。太陽を背にし、順光で撮れる場所を確保できれば、羽の模様や色も鮮明に撮ることができます。

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シギ・チドリは追いかけず撮る場所を決めて待ち構える

写真:トウネン幼鳥 下を向いたまま干潟を歩き回る小型のシギ、トウネン。体が小さいことから、今年生まれたもの、“当年生まれ”からその名が付けられました。写真は幼鳥で、まさに当年生まれの個体。千葉県・三番瀬。
PROMINAR 500mm F5.6FL+TX10(500mm)+EOS7Dで撮影。

シギやチドリの撮影がうまくゆかない場合は、追いかけて撮っているからだと考えられます。淡水系の湿地を好むシギやチドリの仲間には、警戒心の強いものもいますが、海辺でエサを捕る仲間は警戒心が比較的弱く、撮影に適したポイントで待ち構えてさえいれば、向こうから近づいてくるくらいです。

また、周囲に何もない干潟や砂浜で鳥を撮影すると、単調な写真になりがちです。そこで、貝殻や波紋など、アクセントになる被写体を絡めたり、背景に海面を入れたりすると、効果的です。暑い中での撮影は骨が折れますが、潮風を浴びながら撮影を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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