叶内拓哉の野鳥撮影カレンダー

季節ごとの"野鳥の撮り方"を詳しく紹介!

5月のテーマ
繁殖期を迎える初夏は「ソングポスト」を探そう
写真・解説:叶内拓哉(野鳥写真家)

このサイトの写真はPROMINAR 500mm F5.6 FLで撮影しています。(一部を除く) 

多くの野鳥が繁殖期を迎える5月は、なわばりを主張するためにオスが頻繁にさえずります。
張り出した枝先や木のてっぺん、草原では茎の先、電柱の上など、鳥の種類によってさえずる場所はさまざまですが、
よく観察すると、個体によってさえずる場所が一定であることに気がつきます。これを「ソングポスト」と呼びます。

5月ごろに野鳥を撮るときは、まず「ソングポスト」を探しましょう。
「ソングポスト」を見つけることができれば、普段は姿をあまり見せない野鳥も、見晴らしのよい場所でクチバシを大きく開き、
力いっぱいさえずる姿を撮ることができます。

アシ原でさえずるオオヨシキリを撮ろう

写真:オオヨシキリ アシの茎にとまり、力いっぱいさえずるオオヨシキリ。アシは風で揺れますし、さえずるときは体を小刻みに動かすので、シャッター速度は速く(この写真は1/800秒)しましょう。PROMINAR500mmF5.6FL/TX10(500mm)で撮影。

アシ原(ヨシ原)を代表する夏鳥といえば、オオヨシキリです。この時期、河原に広がるアシ原をよく観察すると、細い茎の先にとまり、クチバシを大きく開いてさえずる姿を見つけられます。周囲をよく見渡せ、背の高いアシの先に繰り返しとまるようであれば、そこが「ソングポスト」です。

「ギョギョシギョギョシ」とさえずるのは自分のなわばりを主張するためです。オオヨシキリは一夫多妻でなわばりに数カ所の「ソングポスト」を持っていることが多く、これらのポイントを忙しく巡回し、さえずります。もし、人の気配で飛び去ったとしても、しばらくすると「ソングポスト」に戻ってきます。一気に飛んで戻ってくることもあれば、低い位置を移動しながら、時間をかけて戻ってくることもあります。

ですから、「ソングポスト」とおぼしき場所を見つけたら、そこでオオヨシキリが戻ってくるのを待って撮影します。なお、さえずるのはオスばかりで、メスは近くにいたとしても姿を現すことはあまりありません。また、雌雄同色なので、オスメスの区別はまずできません。

オオヨシキリのほかに、数は少ないですがコヨシキリも同じようなアシ原で撮ることができます。彼らが好むアシ原は、平地を流れる河川の岸、湖や沼にもあります。そのため低地から標高1000mまでと、生育環境は広く、多くの地域で撮影するチャンスがある野鳥だといえます。

pagetop

ナノハナ畑も鳥を多く見られる絶好のポイント

写真:ホオアカ 自分の体の重さで大きくしなったナノハナの茎にとまるホオアカ。警戒するようにキョロキョロと周囲を見まわしています。縦位置で撮ることで、高い所にとまっていることを印象づけました。TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680mm)で撮影。

局地的だが、平地のナノハナ畑も野鳥の姿を多く見られる場所です。ナノハナ畑は昆虫の数が多く、エサを求めてホオジロやホオアカ、ヒバリ、セッカなどがやって来ます。アシ原のオオヨシキリのように、見晴らしのよい撮影条件なので、比較的簡単に撮影できます。

ナノハナ畑に限らず、背丈の低い草原でも、ホオジロの仲間やヒバリなどは「ソングポスト」をつくり、頻繁にさえずります。こうした「ソングポスト」は周囲を見渡すことのできる背の高い草や灌木が選ばれ、茎や枝がフンで白く汚れていることからも見つけることができます。

緯度の低い本州南部や九州では、標高の高い草原に、ホオジロの仲間やセッカの姿を見ることができます。彼らはなわばりである草原や藪に巣をつくり、子育てが終わるまで草原を離れません。ヒバリは上空でホバリングしながら鳴くことが知られていますが、時に周囲を見渡せる石の上や枯れ草にとまり、さえずることもあります。

pagetop

新緑の時期は森に住む野鳥も撮りやすい

写真:コサメビタキ 青々とした若葉が美しい木の枝にとまるコサメビタキ。渡ってきてまもない時期は警戒心も薄く、見つけやすい場所にとまってくれます。この場所は比較的明るかったので、ISO感度400で1/400秒のシャッターが切れました。PROMINAR500mmF5.6FL/TX10(500mm)で撮影。

標高1000〜1500mの樹林でも5月になると夏鳥が姿を見せるようになります。エサとなる昆虫が多く、新緑が美しい落葉広葉樹林で、見晴らしのよい枝先などにとまり、さえずります。コサメビタキやキビタキ、オオルリなどの夏鳥も、渡ってきて間もないこの時期は警戒心も薄く、目立つ場所にとまることが多いようです。

夏鳥たちがさえずる「ソングポスト」があらかじめわかれば、その場所でひたすら待つという撮影スタイルもあります。でも、初めての撮影地ではフィールドを歩きまわり、鳥の姿を見つけたら撮影する、というスタイルがいいでしょう。鳥の姿を見つけたときは、その場でカメラをセットし、まず1枚撮影しましょう。逃げられて1枚も撮れないより、小さくても写っていた方がいいはずです。

キビタキやオオルリを見つけたとしても、むやみに追いかけると森の奥へ奥へと逃げてゆきます。まずは、野鳥の姿を見つけたら、その場で1枚撮り、数歩近づいて1枚、さらに近づいて1枚、と少しずつ近づきながら、間合いを計ります。最初はすぐに逃げられてしまうかもしれませんが、何度か繰り返すと、その鳥がいやがる距離がわかるので、次のチャンスにはその経験を生かして撮影できるようになります。

多くの鳥は繁殖行動が本格化すると森の奥に引っ込んでしまい、明るく撮りやすい場所に出てこなくなります。なお、東日本では戸隠や上高地(ともに長野県)、西日本では大山(鳥取県)などの有名な探鳥地も、この5月が撮影のタイミングとしては最適です。

pagetop

飛行写真は飛び立つ瞬間を狙って撮ろう

写真:オナガ 写真のオナガは左側に写っている木のてっぺんにとまっていたものが、飛んだ瞬間に撮ったものです。シャッターを切るタイミングが遅れてしまったが、オナガが飛ぶと予想される方向の空間を広く空けておいたので、画面に収めることができました。TSN-884 PROMINAR+TSN-PZ(680mm)で撮影。

直線的に飛ぶカモメやサギの仲間は、横から飛行シーンを狙うのであれば難しくないですが、一般に野鳥が飛んでいる姿を、カメラで追いながら撮影するのは至難の業です。では、写真のオナガはどのように撮ったのでしょうか? 実は木の枝から飛び立つ瞬間を狙って撮影したのです。

野鳥が飛び立つ瞬間を捉えることができれば、翼を広げた姿が撮れます。このとき、飛ぶ方向が写真のように水平方向であれば、とまっている鳥にピントを合わせておき、撮ることができます。しかし、画面の奥に飛び去ったり、手前に飛んでくる場合はピント合わせが追いつきません。

このとき知っておくと役に立つ野鳥の習性があります。風があるとき、野鳥は風上に向かって飛ぶのです。そのため、風のある日は、風の向きと垂直の位置に立てば、飛び立つ野鳥を横から捉えることができます。風向きを知るには、風そのものを調べるほか、鳥が枝や電線にとまっている向きから判断することもできます。鳥は風上に頭を向けてとまることが多いので、鳥の姿が横から見える位置に立てば、飛んでゆく姿を横から撮ることになります。

あとは飛び立つ瞬間を逃さずシャッターが切れればいいのですが、最初のうちはシャッターを切るのが遅れてしまいます。そこで、鳥が飛んでゆく方向の空間を広く空けるようにフレーミングし、飛び立つのを待つようにします。そうすることで、多少タイミングが遅れても、鳥の姿を画面に捉えることができる確率が高まります。

pagetop

5月は夏鳥を撮るベストシーズンアシ原や山の樹林に出かけよう

夏鳥をはじめ、多くの野鳥が繁殖期に向け、さえずることでなわばりを主張する5月は野鳥撮影のベストシーズンです。
普段は茂みや森の奥にこもって姿を見せない鳥も、このときばかりは見晴らしのよい場所に陣取って、盛んにさえずります。
平地のアシ原から標高の高い樹林や高原まで、さまざまな場所で鳥たちが繁殖のために動きが活発になるこの時期、野鳥撮影のためフィールドに出かけましょう。

pagetop